英国・ウォーキング団体「ランブラーズ」の歩み

英国の1年を、時候に沿ってお届けする【英国365日】。

1月は、「英国人の冬のウォーキング」について。

英国バッキンガムシャー州在住で英国政府公認ブルーバッチ観光ガイドの木島・タイヴァース・由美子さんにお話いただきます。

〈前回の記事、【英国・冬の「パブリック・フットパス」を歩く】はこちらから〉


それでは、木島さんの#英国ライフ・コラムをお楽しみください!


英国には「ランブラーズ」という約10万人の会員を持つウォーキング団体があります。

ランブラーという言葉は「ぶらぶら歩く」という意味。

全国59か所の地域で485の地元グループが頻繁にウォーキングを企画しており、冬でもたくさんの英国人がウォーキングを楽しんでいます。


慈善団体であるランブラーズは、ウォーキングを楽しむ人たちの集まりであることの他に、イングランド、ウェールズ、スコットランドにある何十万kmに及ぶ小道やルートを保存、改善することを目的に1935年に設立されました。

以来、田舎のオープンスペースを全ての人に開放するキャンペーンを行い、時にはウォーカーにとって大切な権利を獲得するために戦っています。


彼らが企画するウォーキングは、初心者用の6kmルートや上級者のための24kmルート、また高齢者向けや、若者のための特別な企画もあります。


写真:ランブラーズでは、さまざまな人に向けてのウォーキングを企画している。

©Ramblers.org.uk

写真:小さいころから自然に慣れ親しむことは大切

©Ramblers.org.uk



英国人にとって歩く権利がいかに大切であるかは、ランブラーズの歴史を見るとよく分かります。

産業革命が頂点に達した19世紀は、田舎から都会に移り住む人が増えた時代です。

そして、都会の汚れた空気から抜け出して自然の中を歩く、趣味としてのウォーキングが盛んになっていきます。

ところが、特に18世紀に盛んに行われた「囲い込み(エンクロージャー)」という制度によって、それまで人々が共有していた土地を、富裕層が柵で囲んで一般人の侵入を禁止してしまったのです。



そこで1931年、現在のランブラーズの前身となる全国ランブラー連盟評議会(The National Council of Ramblers)が発足し、地主との交渉を続けました。

ところがこの交渉はなかなか進展せず、しびれを切らしたランブラーたちが、翌年丘陵地帯(the Peak District)にあるデヴォンシャー公爵の広大な土地に侵入し、この地帯では最高峰で、海抜600m以上あるキンダー・スカウト(Kinder Scout)をめざして歩き出しました。

不法侵入とあっては、公爵の猟場番人はだまっていません。

小競り合いの結果、数名のランブラーが逮捕されました。

これが歴史に残る『キンダー・スカウトの不法侵入事件(Kinder Scout Trespass)』です。

ところが、世論は逮捕された人たちへ同情し、それに伴い「歩く権利」がますます注目されたという訳です。

現在、キンダー・スカウト不法侵入事件の出発点となったボーデン・ブリッジの採石場は、ウォーカーたちに人気の場所になっています。

写真:ボーデン・ブリッジの採石場に設けられた、キンダー・スカウト不法侵入事件の記念銘板。

I, Marcin Floryan, CC BY-SA 3.0, via Wikipedia Commons


この事件がきっかけとなり、キンダー・スカウトを含む約1450㎢が、1951年に英国初の国立公園(Peak District National Park)に指定され、これに続き湖水地方やウェールズのスノードニアなどの国立公園が誕生します。


ちなみに、キンダー・スカウト不法侵入事件の70周年に当たる2002年に、11代目のデボンシャー公爵は侵入者を逮捕させた祖父の行動に対し、公式に謝罪しています。


写真:英国初の国立公園「ピーク・ディストリクト国立公園」

Photo by Giulia Mulè @mondomulia  


その後、この慈善団体組織は「ランブラーズ」と名前が変わりましたが、設立してから90年以上経つ現在でも、彼らの活動は変わらず続いています。

私たちが今日、自然の中を思いきり歩くことが出来るのも、彼らの大きな犠牲と努力によるところが大きいのです。




【#英国ライフ 今月の紅茶タイム!】

紅茶といえばアフタヌーンティーが思い浮かんだり、おしゃれなイメージを持つ方が多いかもしれませんが、英国では紅茶は日常生活の一部。

わざわざ魔法瓶を持参してウォーキングをする人も多いんです。

写真:ウォーキングには必ず紅茶を持ち歩くペニーさん。


親しい人と紅茶を囲んで過ごすひとときは、英国人にとって大切な時間です。

写真:ティーショップお手製のフラップジャック(オーツ麦、ドライフルーツ、砂糖、ゴールデンシロップを混ぜ合わせた英国の伝統菓子)。

あまりに大きいので、皆さんと一緒に分け合って。

写真:クリスティーンさん


<木島・タイヴァース・由美子 プロフィール紹介>

英国政府公認ガイドとして30年以上にわたって英国全土の観光案内をする。

2015年に英国の文化に特化したツアーの企画、アドバイスを専門に扱うカルチャー・ツーリズムUKを設立。

現在は観光ガイドの他に毎月英国の観光、文化に関してのオンライン・トークを実施している。

バッキンガム州で夫、愛犬の3人暮らし。その他、雑誌や新聞に寄稿。著書に「小さな村を訪れる歓び」「イギリス人は甘いのがお好き」がある。

カルチャー・ツーリズムUKのホームページを見る


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